情報公開制度の活用のススメ

 学力テスト最高裁判決(1976年5月21日)は、「子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある者の責務に属するものとしてとらえられている」と判示しています。
 つまり、教育を施す教育委員会は、学校教育の主体である子どもの学習権(一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利)に対応した教育環境を整備する責務があります。
 
 子どもの学習権に対応した教科書とは、正確な知識と、多面的・多角的な視点からのものの見方、考え方を提供するもの、基礎的な知識を基に、子どもたち自らが、自主的・主体的に学び、思考力・判断力・表現力などを身に付けることができる内容であることが求められるといえると思います。

 したがって、そのような教科書が選定され、採択される適正な手続を整備することが必要となります(手続が適正であれば結果も適正であるとして、その手続を重視するという思想→憲法31条・行政手続法などの適正手続)
 
 「つくる会」系教科書の記述には、歴史の事実に反する記述、自国中心の歴史認識、戦争を肯定する記述、人権よりも国権を重視する記述などの多くの問題記述があり、到底、子どもの学習権を保障する教科書であるとはいえません。

 したがって、適正手続に基づき、適正かつ公正な採択が行われれば、「つくる会」系教科書が、採択される可能性は極めて低くなると思います。

 今治市教委は、2009年度及び2011年の採択において、「つくる会」系教科書を採択しましたが、上記のことを裁判で追及し、採択手続などが一定程度改善し、その結果、2015年の採択では、育鵬社版を採択しませんでした。つまり、採択手続の適正化は、採択手続の透明化・政治的介入を困難にし、違法・不正な採択を困難にし、その結果、育鵬社版教科書の採択を困難にすると思われます。。


 裏を返せば、「つくる会」系教科書が、採択される場合は、どこかに適正手続等に違反があるといえるのではないかと思います。

 ゆえに、採択に関する情報の公開を求め、適正な手続が行われているかを詳細に検証するなどの監視活動が、同教科書の採択を困難にするのではないかと思います。

 情報公開請求の手続に関する事例

 公文書開示請求書(見本)
 公文書開示請求書に添付の具体的な情報公開請求項目(見本)
 公文書開示決定通知書 (見本)     
 改正情報公開法(条例)・公文書管理法の活用

行政に課せられた「住民への説明責任」
市民の「知る権利」の保障


これまで非公開であった公文書の公開の拡充
  市民への行政の説明責任、市民の「知る権利」に対応して、情報公開法と公文書管理法が、改正され、これまで非公開とされてきた公文書や作成されてこなかった公文書の作成が義務付けられ、公文書が公開されるようになってきました。
 この改正法を活用し、採択の不正を明らかにしたり、違法・不正行為を監視し、また、採択手続の適正化を図る環境が広がってきました。

 新居浜市教育委員会における採択関係資料(公文書)の事例
 
 新居浜市教育委員会が、2015年の中学校用教科書採択において、育鵬社版歴史教科書を採択しました。その採択の違法・不正を明らかにするために、情報公開請求を行いました。しかし、幾つかの資料が非公開となりました。そこで、改正された法律を活用し、非公開となって資料の公開を求め、幾つかの資料が公開されました。
 以下、資料の公開を求めた法的根拠を掲載します。
 1、「知る権利」を拡充した情報公開法(条例)・公文書管理法の改正

 住民の「知る権利など」別紙1 「知る権利」の制度保障の情報公開法・公文書管理法(資料))を保障する制度の一つが、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づく情報公開制度である。同法第1条は次のようにそれを規定している。

 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

 たとえば、「新居浜市情報公開条例」(以下「情報公開条例」という。)は、同第1条で、次のように「市民の知る権利」を尊重すると規定している。
 
 
この条例は、市民の知る権利を尊重し、公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、市の機関が保有する情報の公開に関し必要な事項を定め、市が市政に関し市民に説明する責務を全うすることにより、市民の市政に対する理解と信頼を深め、市政への参加を促進し、もって公正で開かれた市政を推進することを目的とする。

 このように、「市民の知る権利を尊重」するとし、「公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、市の機関が保有する情報の公開に関し必要な事項を定め、市が市政に関し市民に説明する責務を全うすることにより、市民の市政に対する理解と信頼を深め、市政への参加を促進し、もって公正で開かれた市政を推進することを目的とする」と「住民自治の理念」に則る「参政権」の基礎をなすものとして情報公開条例を位置付けている。

 参考資料:「今治市情報公開条例逐条解説」(82頁)。 「今治市情報公開条例の手引」(40頁)。
 各自治体に情報公開請求をすれば、入手できます。これら公文書は、CDでも公開請求できますので、紙では1200円の必要が必要ですが、CDならば、100円(実費)程度となります。



2、「知る権利など」を保障する公文書等の管理に関する法律

 宇賀克也(東京大学法学部教授)は、著書『情報公開法と公文書管理』(有斐閣 2010年)の「公文書管理法制の変遷」のなかで、次のように解説している(1〜2頁)。

1 「公用物」としての文書管理
・・・公文書は 公務員の執務の便宜のためのものとする考えが一般的であり、庁舎等と同じく 国や公共団体の使用に供される「公用物」として観念されていた。・・・・・・・基本的には、公文書は公務員の執務の便宜のための「公用物」と観念されていたから、それを提供するか否か、提供するとして誰にいつ提供するかについては、公務員の裁量にゆだねられていた。

2 「公共用物」としての文書管理
このような状況に画期的な変化をもたらしたのが、情報公開法、情報公開条例による客観的情報開示請求制度の創設である。情報公開法 情報公開条例の基礎にある理念は、国は国民に対し、地方公共団体は当該団体の住民に対し説明責務を負っており、その説明責務を履行するために、公文書の開示請求権を国民、住民に付与し、開示を原則として義務付けるというものである。これにより、公文書は、単に公務員の執務の便宜のための「公用物」であるにとどまらず、同時に、道路や公園のように誰もが自由に利用できる「公共用物」としての性格も併有することになった。


 以上のように「公文書等の管理に関する法律」における「公文書」は、「公用物」から「公共用物」へと位置付け直される改正が行われた。同法1条、同4条、同34条は、次のとおりである。

公文書等の管理に関する法律
第一条  
 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

第四条
 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
一  法令の制定又は改廃及びその経緯
二  前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三  複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
四  個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
五  職員の人事に関する事項

第三十四条
 地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければならない。


 下記は、同法の改正を伴い作成された「行政文書の管理に関するガイドライン (抜粋)」(2015年3月13日内閣総理大臣決定。同5年4月1日施行)の≪留意事項≫である。前記の公文書等の管理に関する法律第4条の作成義務がある公文書の政府の解説である。                     資料:行政文書の管理に関するガイドライン

≪留意事項≫
<文書主義の原則>

○ 行政機関の意思決定及び事務事業の実績に関する文書主義については、行政機関の諸活動における正確性の確保、責任の明確化等の観点から重要であり、行政の適正かつ効率的な運営にとって必要である。このため、法第4条に基づき、第3−1において、行政機関の意思決定及び事務事業の実績に関する文書主義の原則を明確にしている。これに基づき作成された文書は「行政文書」となる。

○ 「意思決定に関する文書作成」については、@法第4条に基づき必要な意思決定に至る経緯・過程に関する文書が作成されるとともに、A最終的には行政機関の意思決定の権限を有する者が文書に押印、署名又はこれらに類する行為を行うことにより、その内容を当該行政機関の意思として決定することが必要である。このように行政機関の意思決定に当たっては文書を作成して行うことが原則であるが、当該意思決定と同時に文書を作成することが困難であるときは、事後に文書を作成することが必要である。

○ 例えば、法令の制定や閣議案件については、最終的には行政機関の長が決定するが、その立案経緯・過程に応じ、最終的な決定内容のみならず、主管局長や主管課長における経緯・過程について、文書を作成することが必要である。また、法第4条第3号で「複数の行政機関による申合せ・・・及びその経緯」の作成義務が定められているが、各行政機関に事務を分担管理させている我が国の行政システムにおいて、行政機関間でなされた協議を外部から事後的に検証できるようにすることが必要であることから、当該申合せに関し、実際に協議を行った職員の役職にかかわらず、文書の作成が必要である。

○ 「事務及び事業の実績に関する文書作成」については、行政機関の諸活動の成果である事務及び事業の実績を適当と認める段階で文書化することが必要である。例えば、同一日に同一人から断続的に行われた相談への対応について、最後の相談が終了した後に文書を作成することなどが考えられる。

○ 行政機関の職員は、当該職員に割り当てられた事務を遂行する立場で、法第4条の作成義務を果たす。本作成義務を果たすに際しては、@法第1条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるようにすること、A処理に係る事案が軽微なものである場合を除くことについて、適切に判断する必要がある。


 以上のように、「国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定め」、行政文書等の適正な管理のみならず、「現在及び将来の国民に説明する責務」として、「意思決定に至る経緯・過程に関する公文書」として、「立案経緯・過程に応じ、最終的な決定内容のみならず、主管局長や主管課長における経緯・過程について、文書を作成することが必要である」と「意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるようにすること」(以下「意思決定に至る過程」という。)とし、それらのものを公文書の作成及びその管理を義務づけている。
 以上のように、公開される会議だけでなく、日常業務における「意思決定に至る過程」に関する公文書の作成を義務付けている。したがって、先の情報公開法に基づき、公文書を開示する必要がある。このように、情報公開法と公文書管理法とは、車の両輪として位置付けることで、住民の「知る権利」及び「説明責任」を果たすものとして存在している。
 公文書を公開しなければ、「公開」を求める「審査請求」を!

新居浜市教育委員会への事例集にリンク
 行政不服審査請求の活用
作成中 
 
法の活用に戻る
inserted by FC2 system